

トップページ > 北山研ヒストリー> 北山研での研究:1998年この年、福岡大学から田島祐之くんが大学院に進学した。彼は福岡大学高山研究室の出身であった。高山峯夫さんは免震構造の第一人者と言ってもよい先端研究者で、私とは大学院時代の同級生であった。彼は11号館6階の鉄骨構造の研究室に所属しており私が居た7階ではなかったが、大学院の講義等で彼のことはよく見知っていた。そのため、田島君は高山さんのアドバイスによって私のところに来たのかと思ったが、そうではないと聞いてビックリした。 この年は北山研はどういうわけか不人気で、卒論生は全く集まらなかった。B類の細野具貴くんと原田玄くんの二人も本当は意匠・計画系に行きたかったのであろうが、ふたりして私のところに来て「入れて下さい」というので、Welcomeした。それ以前に香山くんや深海くんといったB類の先輩たちが北山研に所属したこともあって、彼らも私のところに来たのだと思う。B類の学生さんは人数が少ないだけに、その団結も固かったからね。その後、エレベータでバッタリあった白山貴志くんが「先生のところ、まだ空いてますか」と、例の投げやりな調子で聞くので、「空いてるから、いらっしゃい」と言ったところ北山研の仲間に加わることになった。 こうして1998年度の陣容は以下のようになった。私を含めると、あと一人いれば野球のチームが作れるまでに成長したのだ。 助手 小山 明男(こやま あきお) なお1999年3月末をもって小山明男さんは本学を退任し、古巣の明治大学・建築学科へ専任講師として戻って行った。めでたし、めでたし(パチパチパチ)。 1. RC平面十字形部分架構の実験 1998年度には、科研費の基盤研究(C)が採択になった。課題名は「変動軸力および2方向水平力を受ける鉄筋コンクリート骨組接合部のせん断性状」で、初年度の予算は90万円である。これによっていよいよ、都立大学において立体柱梁部分架構実験を行う予算的準備が整った。小谷先生の基盤研究(A)をあわせて、RC柱梁接合部の研究が全開となっていった。この年には、柱軸力と梁主筋に沿った付着状況を変数とした平面十字形柱梁接合部実験を行うこととし、M2の森田君および卒論生の細野君に担当してもらった。実験は1998年8月から10月にかけて実施した。 前年(1997)に東大の塩原等さんが、柱梁接合部の破壊はせん断破壊ではなく、主筋の付着劣化に起因した曲げ破壊であるとする説を提案した。私はそれまで接合部コア・コンクリートの圧壊が接合部せん断破壊を引き起こすと考えていたので(基本的には現在もこのモデルは間違っていないと思っている)、ここでは内柱・梁接合部を対象として、RC平面十字型部分架構試験体6体を用いた静的加力実験によって接合部パネルの破壊機構を検討することにした。実験変数は柱軸力および梁主筋付着性状とした。柱軸力は引張り一定軸力、圧縮一定軸力および引張りから圧縮まで大きく変動する軸力の3種類とした。変動軸力の載荷履歴として、軸力あるいは層間変位の一方を固定して他方を変動させた。梁主筋付着性状は、梁主筋としてD25、D16およびスパイラル筋で巻き補強したD25、の3種類とすることによって変化させた。 試験体は全て接合部パネルのせん断破壊によって耐力が決定した。ただ、柱梁接合部内の梁主筋に沿った付着強度はいずれの梁主筋でも5MPa程度と同じであり、主筋径の違いやスパイラル筋による補強の効果が見られなかったことには、首をひねらざるを得なかった。 一方、接合部パネルの圧縮主ひずみはコンクリート圧縮強度時ひずみ(0.23%)を大きく超えて進展したことが、測定より明らかであった。このことから接合部パネル中央のコンクリートが圧壊することによって接合部のせん断破壊が進行したことを再確認できた意義は大きい。接合部破壊によって層せん断力は低下したが、梁主筋の引張り力は最後まで増加した。このことから梁主筋の引張り力が全て接合部パネルへのせん断入力に寄与する訳ではないのでは?、という疑いが出てきた。このように、接合部せん断破壊が生じても梁主筋引張り力が増大し続ける理由として、私の1998年12月7日付けのノートには、「接合部パネル・コンクリートが斜めせん断ひび割れ等によって損傷して膨張し、これを両側の梁が拘束するために梁主筋の引張り力が増大する」という仮説が記されている。この問題についてはその後21世紀になってから森田君が博士論文研究として取り組むことになる。また接合部パネルへのせん断力の入力に関しては、PC構造の柱梁接合部へのせん断入力を考えることによって、より理解が深まったと考えている。 2. 日本建築センターの研究費 …兵庫県南部地震で被災した学校建物の立体骨組解析 1998年2月に申請した日本建築センターの研究・調査事業申し込みが、幸いにも採択された。題目は「3方向地震力を受ける鉄筋コンクリート建物の柱崩壊過程の解明に関する研究」である。研究代表者は西川孝夫先生、共同研究者は芳村学先生、北山和宏、前田匡樹さん(横浜国立大学助教授)および小山明男さんであった。研究予算として150万円が認められた。実質的な研究は北山研および横浜国大・前田研が担当した。具体的には、北山研では兵庫県立御影高校特別教室棟の立体骨組に三方向地震動を入力する弾塑性地震応答解析を行い(担当はM2の横尾君)、前田研では梁の軸方向伸びに起因する圧縮軸力の効果を検討するため、梁部材の材端にマルチ・スプリング・モデルを組み込んだ平面骨組による静的解析および地震応答解析を行なった。前田さんは青研の後輩であるが、この共同研究が機縁となって北山研と前田研との対抗野球戦を横浜国大でやったり、共同ゼミを開いたりしたのが懐かしい思い出である。 さて北山研では昨年度の高塚君の卒論に引き続いて、兵庫県立御影高校特別教室棟の破壊過程を解明するために、当該建物を立体骨組にモデル化して水平2方向および鉛直方向の地震動を入力する非線形地震応答解析を実施することにした。解析は李康寧さん(注1)が作成したプログラムCANNY-Eを用いて行うことにした。CANNY-Eは(株)構造システムというプログラム作成会社から販売されている業務用のソフトウエアであるが、李康寧さんのご好意によって無償で提供していただいた。部材の復元力特性では負勾配は扱えないので、せん断破壊が先行する部材ではせん断バネの最大耐力をせん断強度として、それ以降は復元力がほぼ横ばいになるように設定した。解析では剛床を仮定してねじれを考慮した。 CANNY-Eによる解析の結果、2階部分に被害が集中し実被害と対応した。2階では北側の耐震壁付近を回転中心とするねじれ振動を起こし、建物南側の柱では変形が大きくなった。耐震診断によって分かっていたことだが、2階における剛性の偏在がこの建物の耐震性能を著しく低下させたことが確認できた。しかし建物南側のRC柱の地震被害は実際には、ほとんど生じなかったことが解析結果とは一致せず、疑問として残ることになった。 (注1)リー・カンニンと読む。大学院修士課程および博士課程を通じての青山研究室(通称、青研)の同級生で、中国・精華大学から1984年に国費で東大に留学しに来た。広大な国土に膨大な人口を抱える中華人民共和国が生んだ天才のひとりである(と我々は思っている)。青研で席を並べて研究しているときから、李康寧さんから非常な恩恵を蒙ってきた。そのひとつがグラフ作成プログラムLBPである。1980年代にはまだExcelやIgorといったお手軽グラフ作成ソフトは無かった。そこで青研ではNECのパソコン(98シリーズ)にカラーペンの付いたプロッターを接続し、自作のプログラムでプロッターを制御してグラフを作図していた。データを入力してプログラムをランすると、ウイーンという音とともにプロッターのペンがワイヤ操作によって縦横に走り始め、スースーッとグラフ(例えばXY座標系の復元力特性)を書いてくれるのだが、グラフ一枚書くのに結構時間がかかる。またプロッターは機械式に動くためしょっちゅうトラブルが発生して、その度に書き直すことになる。ところが研究室にCANONのLASER-SHOTプリンターが導入されてしばらくしてから、このプリンターを使って自在にグラフを書くことのできるソフトウエア(名前をLBPと言った)を何と李康寧さんが自作したのである。それがまた使い易いし、グラフも非常に綺麗であったので、青研中の全員がその恩恵に浴したのであった。それどころか1988年に私が宇都宮大学に赴任して構造研にLBPを持って行くと、その便利さに宇大のみんなも感激して、しばらくすると知らないうちに他の研究室でも使われるようになった。 李康寧さんは現在はバンクーバーに居を構えて、英語もぺらぺらでワールドワイドに活躍している。私がシアトルに国際ワークショップ(壁谷澤先生主催のもの)で出かけたときには、バンクーバーから高速バスに乗ってわざわざ会いに来てくれた。日本にもよくやって来る。CANNYを使わせていただいているときには、李さんに大学に来て貰ったり、時には北山研の学生が李さんの滞在先に出向いたりして、いろいろな質問に答えていただき、貴重なアドバイスを受けたものである。 このように現在に至るまで、私は李康寧さんに助けていただきっ放しである。本当にありがたい。翻って、私が李さんのお役にたったかどうかは甚だ怪しいものであり、それを思うと申し訳ない気持ちで一杯になる。 3. 連層鉄骨ブレースで耐震補強したRC骨組の耐震性能評価 北山研での研究進展にとって重要な出来事が1998年にもあった。1998年5月6日に開催された文教施設協会の耐震診断・補強判定委員会において、学校建物の耐震補強設計物件の審査をしているときに、委員長の岡田恒男先生が「連層鉄骨ブレースを既存RC骨組に増設したときに、耐震改修指針にあるようなタイプIII(全体曲げ)の破壊モードになることが現実にあるのかね」と疑問を呈されたのだ。多分、連層鉄骨ブレース直下の基礎梁の特性、基礎回転の有無、鉄骨枠とRC躯体とを接続するあと施工アンカーが引張りに効く範囲、などによって決まるのだろうが、どうもよく分からんということである。兵庫県南部地震以降、既存建物の耐震診断と耐震補強とが国策として強力に推進されるようになり、私もいくつかの判定委員会に携わって、診断・補強物件の審査に当たってきた。そこでいろいろな問題点に出会ってきたが、連層鉄骨ブレースを組み込んだRC骨組の破壊モードについて真剣に考えたことはそれまで無かったように思う。そこで岡田先生の問題提起にビビッと来た私は、直ぐにこの問題を研究しようと考えた。そしてM1の田島君に、鉄骨ブレース(この当時はその前段階としての耐震壁)を含んだRCフレームの静的解析をプログラムCANNYで行って応力状態を把握するようにと指示したのが、同年6月3日のことであった。 こうして“連層鉄骨ブレース”に関する研究がスタートした。はじめのうちは解析研究であったが、21世紀になってこのテーマで科研費を二つ獲得したことから実験研究にも取り組むことになる。いずれも基盤研究(C)であり、それらの採択課題名を以下に記す。また、今日(2009年10月)までに発表した“連層鉄骨ブレース”関連の論文・梗概・口頭発表等のリストはこちらをご覧いただきたい。数えてみると全部で27編に及んでいる。 基盤研究(C) [2001-2002] 基盤研究(C) [2005-2007] 田島君には、典型的な3階建てRC学校校舎を例として、増設連層耐震壁および連層鉄骨ブレースの各種強度を算定し、破壊モードを検討してもらった。スパンは4.2 m、階高は1階が4.0 m、他の階が3.5 mである。その結果、連層鉄骨ブレースの耐力は鉄骨縦枠材の引張り力を無視した場合には全体曲げ破壊によって決定されたが、鉄骨枠材のあと施工アンカーが効くとして縦材の引張り力まで考慮すると基礎の浮き上がり回転で架構の強度が決定した。このように算定時の仮定によって連層鉄骨ブレースの耐力が異なる場合があることを確認できた。 これらの連層鉄骨ブレース補強に関する一連の研究は、とりあえず2009年3月をもって一旦終了した。しかし、下階壁抜け柱の軸崩壊防止のための補強として連層鉄骨ブレースを壁抜け柱に沿わせて、一石二鳥の補強にしようという耐震補強設計の常道手段が、こと連層鉄骨ブレースの全体曲げという破壊モードに関しては、思ったほど有効ではなく、むしろ下階壁抜け柱の圧壊を加速させる恐れがある、という問題を解決するには至っておらず、いずれまた論理思考を再開したいと思っている。 4. ト形柱梁接合部実験の検討継続とGFRP補強したRC柱の耐震性能 昨年(1997)度実験が終了したト形柱梁接合部実験の成果については検討が不十分だったので、その結果の整理や分析および考察を卒論生の白山君に依頼した(M2の森田君から引き継ぎ)。柱梁接合部内の柱主筋に沿った付着強度を調べると、梁の付いていない側の柱主筋の付着強度は2MPa程度であったのに対して、梁が付いている側の柱主筋のそれは倍以上の4〜5 MPa程度であった。このことは、梁による拘束によって柱主筋の付着強度が増大したことを示唆しており、なかなか面白い結果である。 GFRPで巻き立て補強したRC柱の逆対称曲げ加力実験が横浜国大・前田研で行われたが、その実験結果を前田さんから提供して貰い、その復元力特性や耐震性能についての分析を卒論生の原田くんにお願いした。これは、主筋に沿った付着割裂破壊の抑制にGFRPが効いているような感触を実験から得ていたためである。 基本となるRC柱のせん断補強筋比は0.14%で、せん断スパン比は2、コンクリート圧縮強度は約300 kgf/cm2であった。試験体は曲げ破壊するもの4体、せん断破壊するもの3体でいずれもGFRPの巻き数を変数とした。 曲げ破壊した試験体では、GFRPの巻き数とともに変形性能が向上した。せん断破壊した試験体では、巻き数にともなうせん断強度の増加が認められ(1.5巻きでは0.5巻きの1.2倍)、巻き数が多くなるとともに大きな変形までせん断強度を保持できた。せん断破壊した試験体の柱主筋付着強度はGFRP1巻きまでは無補強試験体とほぼ同じであったが、1.5巻きでは無補強試験体の1.6倍に増大し、付着強度に到達する層間変位も2倍に向上した。危険断面での鉄筋力および軸力からコンクリート圧縮力を算定し、中立軸深さ(これは主筋のひずみ分布から求めた)の0.85倍を等価圧縮ストレス・ブロックのせいとしてコンクリート圧縮応力度を求めたところ、GFRPの巻き数とともに圧縮応力度は増大し、曲げ破壊した試験体では1巻き以上でシリンダー試験によるコンクリート圧縮強度を上回った。加力と直交方向のGFRPの横ひずみは、せん断破壊した試験体のほうが曲げ破壊したものよりも大きかった。 以上からGFRPは、コンクリートの拘束に効果を発揮するとともに、柱主筋による付着割裂に対しても有効に機能して付着強度を増大させ、せん断強度向上に貢献したと結論できる。 (1)兵庫県南部地震で被災した鉄筋コンクリート校舎の立体骨組解析 (2) RC内柱・梁接合部のせん断強度に及ぼす梁主筋付着と柱軸力の影響 (3,4)兵庫県南部地震で被災した鉄筋コンクリート校舎の耐震性能と地震応答(その1、2) (5)鉄筋コンクリート外柱・梁接合部のせん断性状および強度に関する研究 (6,7)引張りおよび圧縮軸力を受けるRC内柱・梁接合部の破壊性状に関する研究(その1、2) (8)鉄筋コンクリート構造の性能設計と各種限界状態 (4)性能の確認〜柱・梁部材の力学性能の評価〜 (9)柱のせん断強度に与える軸力の影響 (10)柱・梁接合部の損傷と建物全体の耐震性能 (11)ねじれ挙動が卓越する建物のIs値と地震応答との関係 (12)耐震診断・耐震補強の現状と今後の課題 主旨説明 (13)第2章 その2 柱・梁接合部
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